伊良部島「サバ沖井戸(サバウツガー)」で知る水の歴史

観光

123段の階段に込められた島の記憶

正直に言うと、私が初めてサバウツガーの存在を知ったとき、「井戸?観光スポットとして面白いの?」って思ってしまったんですよね。17ENDや渡口の浜みたいな、いわゆる「映える」スポットの方が気になっていたから。

でも実際に訪れてみて、その考えは完全に覆されました。

123段の石段を下りながら、潮風を感じて、目の前に広がる宮古ブルーを眺めていると、ここで何百年も前から人々が水を汲んでいたんだって思うと、なんだか胸が熱くなるんです。しかも女性たちが午前3時から、1日に3~4往復も、この急な階段を水を抱えて登っていたって聞いたら、もう言葉が出ない。

伊良部島の隠れた名所「サバ沖井戸(サバウツガー)」について、私が実際に訪れた経験を交えながら詳しくお伝えします。「伊良部島 観光」で検索している方なら、きっとこの場所の魅力が伝わるはず。海だけじゃない、伊良部島の深い歴史を感じられるスポットです。

サバウツガーって何?基本情報を押さえておこう

サバウツガーは、伊良部島の東側、佐良浜地区の外れにひっそりと佇む井戸です。「ガー」というのは宮古方言で「井戸」という意味。つまり「サバウツの井戸」ってことですね。

なぜ「サバウツ」なのかというと、池間島から見たときにこの地形がサメ(サバ)の口に似ているかららしいです。私も池間島から双眼鏡で確認してみたかったんですけど、正直そこまで確認できなかった…。でもこの名前の由来を聞くだけで、昔の人がどれだけ自然を観察していたかが伝わってきます。

宮古島市指定史跡になっているこの井戸は、直径約1~1.5メートル、深さ4.5メートル。昭和41年(1966年)に簡易水道が整備されるまで、なんと約240年間も佐良浜の人々の生活用水として使われていたんです。

この井戸を発見したのは「ミャーギ立の金大主」と「フッズゥーの松大主」という二人の若者。サバウツバンタ(崖の上)での野良仕事の合間に、水の音を聞いて発見したという伝説が残っています。

アクセス情報

住所: 沖縄県宮古島市伊良部前里添588-70
駐車場: あり(約5台分)
料金: 無料
所要時間: 往復で30~40分程度(階段の上り下り含む)

佐良浜のAコープから看板に従って進むのが一番わかりやすいです。途中から「サバ沖井戸」という表示に変わるので「あれ、間違えた?」って一瞬不安になるかもしれませんが、同じ場所なので大丈夫。

宮古空港からは車で約30分、伊良部大橋を渡ってから15分くらいの場所にあります。

水に恵まれない島の過酷な歴史

伊良部島を含む宮古諸島は、隆起サンゴ礁でできた島々。地質的な特徴として、雨水が地下に浸透しやすく、川もほとんどありません。つまり、水を確保するのがめちゃくちゃ大変な環境なんです。

これ、現代に生きる私たちには想像しにくいかもしれません。蛇口をひねれば水が出る、当たり前の生活に慣れてしまっているから。でもほんの60年前まで、この島では水を得ることが生きることそのものだったんですよね。

池間島からの移住者たち

サバウツガーのある佐良浜地区は、実は池間島から移住してきた人々が作った集落です。1720年、池間島の人口が増えすぎて食糧不足が深刻になり、分村として「伊良部池間添」と「伊良部前里添」という地域が作られました。

見知らぬ土地に移り住んで、最初に直面したのが水の問題。もともと伊良部島に住んでいた人々によって発見されていたサバウツガーは、移住者たちにとって文字通り「命の水」だったわけです。

最新のゲノム解析でも、池間島と佐良浜地区が同じルーツを持つ民族であることが証明されているそうで、歴史のロマンを感じますよね。

女性たちの過酷な日課

石碑に刻まれた文章を読んだとき、本当に胸が痛くなりました。

「水汲みは女たちの日課で、午前3時から1日3~4回、123段の階段を往復したという、生きるための過酷な歴史をもっている」

午前3時ですよ。真っ暗な中、急な石段を下りて、重い水を抱えて登ってくる。しかも1日に何往復も。私なんか1回下りて登っただけでヒーヒー言ってたのに、当時の女性たちは毎日これを繰り返していたんです。

しかもこの井戸の水、潮の満ち引きで塩分濃度が変わるから、飲料水としては適していなかったらしいんです。それでも「水があるだけで奇跡」だったんでしょうね。洗濯や炊事に使える水があるだけで、どれだけ助かったことか。

家族が多い家庭では往復回数も増える。子どもを背負いながら水を運んだ母親もいたはず。想像するだけで涙が出そうになります。

急な石段を下りる女性

実際に訪れてみた|123段の階段が語るもの

初めて訪れたのは5月の午後。駐車場に車を停めて、まず目に入ったのは説明石碑とオーシャンビューの休憩所。屋根はないけど、ベンチに座って遠くまで見渡せる開放感が最高でした。

石碑の奥に進むと、岩の横を下っていく階段が見えてきます。これが噂の123段。

階段を下りる前の心構え

正直に言うと、舐めてました。「階段くらい余裕でしょ」って思っていたんです。でも実際に下り始めると、思っていた以上に急勾配。しかも岩を削って作った階段だから、段差もバラバラだし、手すりもない場所が多い。

途中で何度か立ち止まって休憩しながら、目の前に広がる海を眺めました。宮古ブルーって本当に綺麗。透明度が高くて、海の底まで見えそうなくらい。風が強くて、潮の香りが濃い。

階段を下りながら、ふと思ったんです。「これを水を抱えて登るって、どんな感覚だったんだろう」って。

井戸に到着

123段を下りきると、そこには石積みの井戸がありました。直径1メートルちょっと、深さ4.5メートル。見た目は地味だけど、この緻密な石積みを見ると、当時の石工技術の高さが伝わってきます。

現在は水が枯れていて、史跡として保護するためにコンクリートで固められています。覗き込んでみたけど、浅い水が張っているだけでした。綺麗な湧水を想像していたから、ちょっと残念な気持ちもあったけど、これが現実なんですよね。

井戸のすぐ下は海。波の音が間近に聞こえて、岩場がゴツゴツしている。シュノーケルで遊んでいる人もいたけど、地元の人に聞いたら「ここは危ない場所」って言われました。白波が立っているリーフの向こうは一気に深くなっているから、泳ぐときは本当に注意が必要です。

青の洞窟に泳いで行けるらしいけど、私は泳ぎに自信がないから断念。でも景色を見るだけでも十分価値がありました。

登りはもっときつい

さて、問題は帰り道。

下りよりも登りの方が圧倒的にきついです。途中で息が上がって、何度も立ち止まりました。30度近い気温の中、日差しを浴びながらの階段登りは、想像以上にハード。

「昔の人、本当にすごすぎる…」って心の中で何度も呟きながら登りました。しかもこれを1日3~4回って。現代人の私が1往復でヒーヒー言ってるのに。

駐車場に戻ったときは、もう汗だく。休憩所のベンチに座り込んで、しばらく動けませんでした。でもなんか、達成感があったんですよね。ほんの少しだけ、当時の人々の苦労を体感できた気がして。

階段を登りきって達成感を感じる女性

訪れる前に知っておきたい注意点

サバウツガーは観光地として整備されているわけではないので、いくつか注意点があります。私が実際に行って「これは知っておいた方がいいな」と思ったことをまとめておきます。

服装と持ち物

必須アイテム:

  • 歩きやすいスニーカー(サンダルはNG)
  • 帽子
  • 日焼け止め
  • 飲み物(多めに)
  • タオル

階段は岩を削った不安定な場所も多いので、ビーチサンダルはやめておいた方がいいです。私はスニーカーで行ったけど、それでも足元が不安定な箇所がいくつかありました。

日差しを遮るものが一切ないので、帽子と日焼け止めは必須。真夏は特に注意してください。私が行ったのは5月でしたが、それでもかなり暑かったです。

水分も多めに持って行きましょう。階段の往復で思った以上に汗をかきます。自動販売機は近くにないので、事前に準備を。

訪問に適した時間帯と季節

おすすめの時間帯:

  • 早朝(6~8時):涼しくて観光客も少ない
  • 夕方(16~18時):日差しが弱まって過ごしやすい

真昼間は避けた方が無難です。日陰がないし、階段の石が熱くなっているし、体力的にもきつい。

季節について:
季節的には、10月~4月の涼しい時期がおすすめ。夏場(6~9月)に行く場合は、早朝か夕方を狙いましょう。台風シーズン(7~10月)は波が高くなることもあるので、天気予報をチェックしてから。

体力に自信がない方へ

階段を下りるのが不安な方は、上からの眺めだけでも十分価値があります。駐車場の休憩所から見える景色も素晴らしいので、無理せず楽しんでください。

私の知人は足が悪いお母さんを連れて行ったとき、休憩所で待っていてもらって、自分だけ階段を下りたそうです。それでもお母さんは「景色が綺麗で来てよかった」って喜んでいたとか。

佐良浜地区の魅力も堪能しよう

サバウツガーに行くなら、せっかくなので佐良浜地区も散策してみてください。この地域、独特の雰囲気があって面白いんです。

カツオの街・佐良浜

佐良浜はカツオ漁で有名な港町。沖縄県内のカツオ漁獲量の8割を占めるって聞いて、びっくりしました。港には大きな漁船が並んでいて、活気があります。

おーばんまい食堂魚市場いちわ という2軒のお食事処があって、新鮮なカツオやマグロ料理が食べられます。私はおーばんまい食堂でカツオの刺身定食を食べたんですけど、これがもう絶品。臭みが全くなくて、身がプリプリしていて、東京で食べるカツオとは別物でした。

おーばんまい食堂の入り口前には、カツオ漁をしているような壁画があって、SNS映えする写真が撮れますよ。

迷路のような集落

佐良浜の集落は、急な斜面にぎゅうぎゅうに家が立ち並んでいて、車が通れない狭い路地が入り組んでいます。まるで迷路みたい。

この独特な街並みは、限られた平地に多くの人が住まなければならなかった歴史の名残り。歩いていると、昭和にタイムスリップしたような感覚になります。

路地を散策していたら、地元のおばあちゃんに「どこから来たの?」って声をかけられて、井戸の歴史について色々教えてもらいました。こういう偶然の出会いも、旅の醍醐味ですよね。

周辺の観光スポット

サバウツガーの近くには、他にも見どころがあります。

牧山展望台: 島内で最も高い場所にある展望台。サシバ(鷹の一種)をイメージした外観が特徴的。ここからの眺めは最高です。伊良部大橋や宮古島、池間島まで一望できます。

フナウサギバナタ: 「船を見送る岬」という意味の展望台。残念ながら老朽化で立ち入り禁止になっていますが、周辺からの眺めは素晴らしいです。

白鳥崎: 宮古島の西平安名崎や池間島を望める岬。公園として整備されていて、のんびり過ごせます。

私のおすすめコースは、牧山展望台 → サバウツガー → 佐良浜でランチ → 白鳥崎 → 佐和田の浜 という流れ。半日あれば十分回れます。

サバウツガーでの写真撮影のコツ

せっかく訪れるなら、良い写真も残したいですよね。私が実際に撮影してみて「これは良かった!」というポイントをシェアします。

構図のアイデア

階段からの海の眺め: 階段の途中から撮る海の写真が一番映えます。青空と宮古ブルーのコントラストが美しい。縦構図で撮ると、階段の奥行きも表現できます。

井戸と海のセット: 井戸を前景に、バックに海を入れると、歴史と自然が共存している雰囲気が出ます。

休憩所からのパノラマ: 駐車場の休憩所から撮るパノラマショットもおすすめ。スマホのパノラマモードを使えば、広大な海を一枚に収められます。

撮影の注意点

階段は狭くて急なので、撮影に夢中になりすぎないように。足元に注意しながら、安全第一で。

自撮り棒があると、高い目線からの写真が撮れて便利です。海の色がより綺麗に見えます。ただし、風が強い日は飛ばされないように気をつけて。

時間帯によって海の色が変わるので、何度か訪れて違う表情を撮るのも面白いかもしれません。私は午後に行ったけど、朝の光の中で撮る写真も綺麗だろうなって思います。

知っておくと役立つ豆知識

宮古島の水事情の歴史

宮古島全体で見ても、昔は水不足が深刻な問題でした。島民は雨水を貯めるタンクや、海岸沿いの湧水(ガー)を頼りに生活していました。

戦前までは、各集落にいくつかの共同井戸があって、そこまで水を汲みに行くのが日課。水道が完備されたのは、本土よりもずっと遅れて、1960年代以降のことです。

サバウツガーが使われなくなった1966年は、ちょうど日本が高度経済成長期の真っ只中。東京オリンピックが終わって、新幹線が開通して、本土では便利な生活が当たり前になっていた頃。その時期まで、この島では水汲みが続いていたんですよね。

「ガー」という言葉について

宮古方言で井戸を意味する「ガー」は、島のあちこちで見かける言葉です。「イムガー」「ヌーガー」など、地名にもなっています。

これらの井戸は、単なる水源ではなく、集落の中心的な場所でもありました。水を汲みに来た人たちが情報交換をしたり、世間話をしたり。今で言うコミュニティスペースのような役割もあったんでしょうね。

サバウツガーも、きっとそういう場所だったはず。重労働ではあったけど、女性たちが集まって、お互いの苦労を分かち合ったり、励まし合ったりしていたのかもしれません。

石工技術の高さ

サバウツガーの石積みを見ると、当時の職人技術の高さに驚かされます。隙間なく積まれた石は、何百年も崩れることなく井戸を支えてきました。

コンクリートもない時代に、急斜面に123段もの階段を作り、深さ4.5メートルの井戸を掘る。しかも海のすぐそばで、波の影響を受けやすい場所で。これがどれだけ大変な工事だったか、想像もつきません。

現代の技術を持ってしても、同じものを作るのは簡単ではないでしょう。先人の知恵と技術に、頭が下がります。

よくある質問(FAQ)

Q1: 泳いでもいいの?

A: 泳ぐことは可能ですが、地元の人からは「危ない場所」と言われています。岩場がゴツゴツしていて、リーフの向こうは急に深くなっているため、十分な注意が必要です。

シュノーケルをする場合は:

  • 必ず2人以上で
  • ライフジャケット着用
  • 波が高い日は避ける
  • 満潮・干潮の時刻を確認

青の洞窟に泳いで行けると聞きますが、上級者向けです。初心者は無理せず、景観を楽しむことをおすすめします。

Q2: 子連れでも大丈夫?

A: 階段が急で不安定なので、小さなお子さん連れには正直おすすめしません。小学校高学年以上で、体力に自信があるお子さんなら大丈夫だと思いますが、必ず大人が付き添ってください。

休憩所から眺めるだけでも十分楽しめるので、無理に階段を下りる必要はありません。

Q3: 車椅子やベビーカーは?

A: 残念ながら、車椅子やベビーカーでのアクセスは難しいです。駐車場から休憩所までは平坦ですが、階段は当然使えません。

Q4: トイレはある?

A: 駐車場の近くに東屋とトイレがあります(さばおき園地)。ただし、あまり綺麗とは言えないので、事前に済ませておくことをおすすめします。

Q5: どのくらい時間がかかる?

A: 階段の往復だけなら30~40分程度。写真を撮ったり、景色を楽しんだりするなら1時間くらい見ておくといいでしょう。

Q6: 雨の日でも行ける?

A: 階段が滑りやすくなるので、雨の日は避けた方が無難です。晴れた日でも石が湿っていることがあるので、足元には注意してください。

Q7: 夏と冬、どっちがおすすめ?

A: 個人的には冬(11~3月)の方がおすすめです。涼しくて快適だし、観光客も少なめ。夏は暑すぎて体力的にきついです。

ただし冬は北風が強くなることがあるので、防風対策は必要です。

Q8: 近くにお店はある?

A: サバウツガーの周辺には何もありません。佐良浜の集落まで行けば、スーパー(Aコープ)や食堂がありますが、10分くらい車で移動する必要があります。

飲み物や軽食は事前に用意しておきましょう。

サバウツガーが教えてくれること

サバウツガーは、観光スポットとしては地味かもしれません。17ENDや渡口の浜みたいな「映える」場所ではないし、インスタ映えする華やかさもない。

でも、この場所には確かに「何か」があるんです。

それは、人々が自然と向き合いながら生きてきた証。便利さとは無縁だった時代の、生きることの重み。水一滴の貴重さ。女性たちの汗と涙。家族を支えるための覚悟。

私たちが当たり前だと思っている「水」が、どれだけありがたいものか。蛇口をひねれば出てくる水が、どれだけ多くの人の努力の上に成り立っているか。

サバウツガーの階段を登りながら、そんなことを考えました。

伊良部島を訪れたら、ぜひ一度、この場所に足を運んでみてください。海の美しさとは違う、もっと深い何かに触れられるはずです。歴史を知ることで、旅はもっと豊かになる。私はそう信じています。

123段の階段。240年の歴史。女性たちの日課。

この小さな井戸が語る物語は、決して小さくありません。


施設情報まとめ

項目詳細
名称サバ沖井戸(サバウツガー)
住所沖縄県宮古島市伊良部前里添588-70
アクセス宮古空港から車で約30分、佐良浜のAコープから車で5分
駐車場あり(無料・約5台)
料金無料
所要時間30分~1時間
階段123段(片道)
指定宮古島市指定史跡

伊良部島での素敵な思い出作りに、サバウツガーを加えてみてはいかがでしょうか。きっと、忘れられない体験になるはずです。