伊良部島「ヤラブロード」で味わう島時間

観光

テリハボクの並木道が教えてくれる沖縄の風景

佐良浜から下地島空港に向かう途中で、なんだか妙に落ち着く道があって。両側に背の高い木が並んでいて、木漏れ日が道路に落ちて、風が葉を揺らす音が聞こえて。

「この道、なんか好きだな」って思って車を停めて調べたら、「ヤラブロード」って呼ばれている場所だって知りました。ヤラブっていうのは、テリハボクという木の沖縄での呼び名。台風に強くて、潮風にも負けない、島を守ってきた木なんだそうです。

派手な観光スポットじゃない。でもこの道を走ると、なんだか心が落ち着くんですよね。島の時間の流れが違うっていうか、急ぐ必要なんてないって気持ちになる。

伊良部島の隠れた魅力「ヤラブロード」について、私が実際に何度も訪れた体験を交えながらお伝えします。「伊良部島 観光」で検索している方にこそ読んでほしい。ビーチだけじゃない、島の本当の姿が見える場所です。

ヤラブロードって何?基本を押さえよう

ヤラブロードは、伊良部島の佐良浜から下地島空港方面に向かう県道(沖縄県道90号下地島空港佐良浜線)の愛称です。正式な観光スポット名ではないけど、地元の人や何度も訪れているリピーターの間で、そう呼ばれています。

道の両側にヤラブ(テリハボク)の木が並んでいて、まるでトンネルのように覆い被さっている場所もあります。全長は8キロくらい。車で走れば15分程度の距離だけど、急ぐ必要はありません。むしろゆっくり走って、窓を開けて、風を感じながらドライブするのが正解。

ルートの基本情報

起点: 佐良浜港周辺
終点: 下地島空港周辺
距離: 約8km
所要時間: 車で15~20分(ゆっくり走る場合)
道幅: 片側一車線(比較的狭い)
特徴: ヤラブ(テリハボク)の並木道

宮古空港から伊良部大橋を渡って佐良浜方面に行き、そこから下地島空港に向かうルートが、ヤラブロードです。逆に、下地島空港から佐良浜に向かうルートでもOK。

ヤラブ(テリハボク)って何?

「ヤラブ」という言葉、初めて聞く人も多いと思います。私もそうでした。

ヤラブは沖縄での呼び名で、正式名称は「テリハボク(照葉木)」。名前の通り、葉に光沢があってツヤツヤしているのが特徴です。海岸に生える常緑樹で、環境が良ければ樹高は20~25メートルにもなる高木。

台風に強い島の守り神

ヤラブの一番すごいところは、とにかく台風に強いこと。

根が地中深く伸びる直根性の木だから、台風で枝は折れることがあっても、倒木することはほとんどないんです。宮古島を含む沖縄の島々は、毎年台風の直撃を受けます。だからこそ、昔から防風林・防潮林として、海岸沿いや集落の周りに植えられてきました。

琉球王府時代には「海垣」と呼ばれる防風林として、計画的に植樹されていたそうです。島を守る木として、何百年も前から大切にされてきたんですね。

私がヤラブロードを好きになった理由の一つが、この「島を守ってきた歴史」を感じられるから。ただの並木道じゃなくて、先人たちの知恵と努力が今も残っている場所なんだって思うと、なんだか感動します。

実用性も高い万能の木

ヤラブは見た目だけじゃなく、実用性も高い木です。

大きく丸い実からは良質な油が搾れて、昔は灯りの燃料や薬として使われていました。最近では「タマヌオイル」という名前で、美容オイルとしても注目されています。抗酸化力が高くて、肌や髪のケアに良いらしい。池間島では、このタマヌオイルの製造を始めて、島の新しい産業になっているそうです。

材としても優秀。硬くて木目が美しいから、農具や祭祀用のお椀、家具なんかにも使われてきました。波打つような木目は芸術的で、一枚板や家具は高級品として扱われています。

どこから来た木?

確かなことは分かっていないそうですが、フクギ(福木)とともに、交易時代に福建からもたらされたという説があります。沖縄では「ヤラブ」「ヤラウ」「ヤナブ」「ヤラボ」など、地域によって呼び方が違います。

石垣島には「屋良部岳」という山があるし、「屋良部」という名字の方もいるそうです。それだけ、沖縄の人々の生活に深く根付いてきた木なんですね。

ヤラブロードを車で走る女性

ヤラブロードの魅力|何がそんなにいいの?

「並木道なんて、どこにでもあるじゃん」って思うかもしれません。確かにそうなんです。でもヤラブロードには、他の場所にはない独特の雰囲気があります。

時間の流れが違う

一番感じるのは、時間の流れの違い。

都会の並木道って、せわしないじゃないですか。車はビュンビュン走るし、信号はあるし、お店や看板が目に入ってくるし。でもヤラブロードは違う。

片側一車線の狭い道で、スピードは自然とゆっくりになります。対向車もそんなに来ない。周りには畑やサトウキビ畑が広がっていて、建物はほとんどない。ヤラブの木がゆっくり揺れて、木漏れ日が道路に落ちて、風の音が聞こえて。

「あ、島時間ってこういうことか」って、初めて実感しました。

急ぐ必要がないんです。どこかに急いで行かなくちゃいけない理由なんてない。今、この瞬間の風や光を感じながら、ゆっくり走ればいい。そう思わせてくれる道です。

五感で感じる沖縄

窓を開けて走ると、五感が刺激されます。

視覚: 緑のトンネル、木漏れ日のパターン、遠くに見える海の青
聴覚: 風で葉が擦れ合う音、鳥のさえずり、静けさ
触覚: 潮風の湿り気、沖縄の空気の柔らかさ
嗅覚: 潮の香り、草木の匂い、土の匂い

触覚以外は全部、窓を開けないと感じられません。だからエアコンを消して、窓を全開にして走ってほしい。多少暑くても、その価値はあります。

私が一番好きなのは、風の音。ヤラブの葉が風に揺れる「サワサワ」という音。都会では絶対に聞けない音です。この音を聞くために、わざわざ車を停めてエンジンを切ることもあります。

季節や時間帯で表情が変わる

何度訪れても飽きないのは、季節や時間帯で全然違う顔を見せてくれるから。

早朝: 朝日が木々の間から差し込んで、幻想的な光景。空気が澄んでいて気持ちいい。鳥の鳴き声が響きます。

昼間: 緑が眩しい。木陰が涼しくて、真夏でも比較的過ごしやすい。青空とのコントラストが美しい。

夕方: 夕日が木々を照らして、黄金色に染まります。一日で一番ドラマチックな時間帯。

雨の日: 濡れた葉がさらにツヤツヤして、緑がより深く見えます。雨音と葉音が混ざり合う音が心地いい。

私が一番好きなのは、実は雨上がり。濡れた葉が光を反射してキラキラして、空気がひんやりしていて、なんとも言えない清涼感があります。

ドライブのコツと注意点

ヤラブロードを楽しむには、いくつかコツがあります。

ゆっくり走る勇気

まず大事なのは、ゆっくり走ること。

制限速度は50kmくらいですが、私は30~40kmくらいでのんびり走ります。後ろから車が来たら、広い場所で道を譲る。それでいいんです。

最初は「後ろの車に迷惑かも」って思ってスピード出してたんですけど、それだともったいない。景色も風も、全部通り過ぎちゃう。ゆっくり走る勇気を持つと、見える世界が変わります。

窓を開ける

繰り返しになりますが、窓を開けてください。できれば全開。

エアコン効いた車内から見るヤラブロードと、窓全開で風を感じながら走るヤラブロードは、全くの別物です。暑さも含めて、島の空気を感じてほしい。

ただし真夏の昼間は本当に暑いので、早朝か夕方がおすすめ。あるいは、5~6月や10~11月の過ごしやすい時期。

停車できる場所は限られる

ヤラブロードは片側一車線で、基本的に停車スペースはありません。無理に路肩に停めると、対向車の邪魔になったり、農作業の邪魔になったりします。

どうしても停まりたいときは、道幅が広くなっている場所を見つけるか、下地島空港や佐良浜港の駐車場まで行ってから、歩いて戻ってくるのがいいかも。

私は一度、農道の入り口付近に停めてしまって、地元の方に注意されました。「ここは農道だから、作業車が通るんだよ」って。すごく申し訳なくて、それ以来気をつけています。

対向車に注意

道幅が狭いので、対向車とすれ違うときは慎重に。特にカーブが多いから、見通しが悪い場所もあります。

スピードを出しすぎないことが一番の安全対策です。

ヤラブの木を見上げる女性

ヤラブロード周辺のおすすめスポット

ヤラブロードを走るなら、ぜひ周辺のスポットも回ってみてください。

佐良浜港

ヤラブロードの起点(または終点)。カツオ漁で有名な漁港で、「いんしゃの駅・佐良浜」では新鮮な海鮮丼が食べられます。

漁港の背後に広がる急斜面のカラフルな集落も必見。迷路のような路地を散策すると、昔ながらの島の暮らしが感じられます。

朝、ヤラブロードをドライブしてから、佐良浜港で海鮮丼のランチ。これが私の定番コースです。

下地島空港

2019年に民間空港としてリニューアルされた、おしゃれな空港。保安検査場の前にあるカフェとお土産屋は、フライトを利用しない人でも入れます。

おすすめは、カツオなまり節と海ぶどうを使ったサンドイッチ。下地島空港でしか食べられない一品です。ヤラブロードのドライブの休憩にぴったり。

17END

下地島空港の滑走路の先端にある、絶景ビーチ。"最後の楽園"と呼ばれるほど美しい場所です。

ヤラブロードを走ってきて、下地島空港を過ぎてさらに進むと17ENDに着きます。干潮時の白い砂浜と透明な海は、言葉を失う美しさ。タイミングが合えば、着陸直前の飛行機を間近で見られます。

渡口の浜

伊良部島を代表する天然ビーチ。弓状の形をした、長さ約800メートルのビーチです。

パウダーサンドがフワフワで、裸足で歩くと気持ちいい。ヤラブロードから少し寄り道すれば行けるので、セットで訪れるのがおすすめ。

通り池

大小二つの池が地下でつながっている、神秘的な天然の池。「龍の目」とも呼ばれています。

エメラルドブルーの水面と岩場のコントラストが美しくて、パワースポットとしても人気。ヤラブロードからは車で5分くらい。遊歩道があるので、散策しながら楽しめます。

牧山展望台

伊良部島で最も高い場所にある展望台。サシバ(渡り鳥)をモチーフにしたデザインが特徴的。

ここからは伊良部大橋、宮古島、来間島、池間島が一望できます。360度のパノラマビュー。ヤラブロードとは別ルートですが、伊良部島を訪れたなら外せない場所です。

おすすめドライブプラン

私が実際にやっている、ヤラブロード中心のドライブプランを紹介します。

半日プラン(午前中スタート)

8:00 牧山展望台
朝一番で展望台へ。早朝は観光客も少なくて、静かに景色を楽しめます。空気も澄んでいて気持ちいい。

8:30 ヤラブロードをゆっくりドライブ
窓全開で、佐良浜から下地島空港まで。朝の光が木々の間から差し込んで、とても幻想的。途中、安全な場所で車を停めて、森の音を聞く。

9:00 下地島空港でカフェ休憩
空港のカフェで朝食(または軽食)。飛行機の離着陸を眺めながらのんびり。

9:30 17END
干潮時刻に合わせて訪問。真っ白な砂浜を散策。写真をたくさん撮る。

11:00 渡口の浜
少し泳いでも良し、砂浜を歩いても良し。パウダーサンドの気持ち良さを体感。

12:00 佐良浜港で海鮮ランチ
「おーばんまい食堂」でカツオ丼または海鮮丼。新鮮で美味しい!

13:00 佐良浜の集落散策
カラフルな街並みを写真に収めて、迷路のような路地を歩く。

1日プラン

半日プランに加えて、午後は:

14:00 サバウツガー(サバ沖井戸)
123段の階段を下りて、歴史的な井戸を見学。景色も素晴らしい。

15:30 通り池
神秘的な池を散策。パワーをもらう。

17:00 佐和田の浜で夕日鑑賞
「日本の渚100選」に選ばれた美しいビーチ。夕日の時間帯は特に美しい。巨岩が点在する独特の景観。

18:30 伊良部大橋を渡って宮古島へ
夕暮れ時の伊良部大橋も絶景。オレンジ色に染まる海がロマンチック。

このプランなら、伊良部島の主要スポットをほぼ網羅できます。

季節ごとの楽しみ方

春(3~5月)

過ごしやすい気候で、ドライブに最適。新緑の季節で、ヤラブの葉も生き生きしています。GWは観光客が多いので、できれば4月か5月上旬がおすすめ。

海開きは3月下旬なので、泳ぐこともできます。ただし水温はまだ少し冷たいかも。

夏(6~9月)

一番暑い時期。ヤラブロードは木陰があるので、比較的涼しく感じますが、それでも暑いです。早朝か夕方のドライブがおすすめ。

海は最高に綺麗。17ENDや渡口の浜で泳ぐなら、この時期が一番。カツオ漁の最盛期でもあるので、佐良浜港が活気づきます。

台風シーズン(7~10月)でもあるので、天気予報をこまめにチェック。台風直撃の場合は、外出は控えましょう。

秋(10~11月)

個人的に一番おすすめの季節。暑すぎず寒すぎず、快適にドライブできます。観光客も夏よりは少なめ。

海もまだ十分泳げる水温。空が高くて、写真も綺麗に撮れます。

冬(12~2月)

沖縄の冬は温暖ですが、それでも20度前後。風が強い日は体感温度が下がります。

ヤラブロードのドライブは、むしろ冬が快適かも。窓を開けても寒すぎず、ちょうどいい風が気持ちいい。観光客も少なくて、静かに過ごせます。

海は泳ぐには寒いですが、景色を見るだけなら問題なし。冬の宮古ブルーも綺麗です。

ヤラブロードで深呼吸する女性

よくある質問(FAQ)

Q1: ヤラブロードはどこからどこまで?

A: 明確な定義はありませんが、一般的には佐良浜港周辺から下地島空港周辺までの、県道90号線を指します。約8kmの道のりです。

Q2: レンタカーは必要?

A: 必須です。伊良部島は公共交通機関がほとんどないので、レンタカーがないと不便です。

Q3: 自転車でも行ける?

A: 可能ですが、8kmは結構な距離。しかもアップダウンがあるので、体力に自信がある人向け。電動アシスト付き自転車なら楽かも。

下地島空港でレンタサイクルもあるそうなので、空港から17ENDまでサイクリング、という人もいるようです。

Q4: 夜のドライブはどう?

A: おすすめしません。街灯がほとんどなくて、真っ暗です。野生動物が出てくることもあるし、道幅も狭いので、夜は避けた方が無難。

Q5: 写真撮影のベストスポットは?

A: 正直、どこでも絵になります。木のトンネルになっている場所、木漏れ日が綺麗に落ちている場所、遠くに海が見える場所。

ただし路上での撮影は危険なので、必ず安全な場所に停車してから。

Q6: 雨の日でも楽しめる?

A: 雨の日ならではの楽しみ方があります。濡れた葉がキラキラして綺麗だし、雨音と葉音のハーモニーが心地いい。

ただし視界が悪くなるので、運転には十分注意してください。

Q7: ヤラブの実は食べられる?

A: 実そのものは食用ではありません。実から搾った油(タマヌオイル)が使われます。美容オイルとして、お土産にもおすすめ。

Q8: どのくらい時間がかかる?

A: 普通に走れば15分程度。でもゆっくり楽しむなら30分~1時間は見ておきたいです。途中で停まって、森の音を聞いたり、写真を撮ったり。

Q9: トイレはある?

A: ヤラブロード沿いにはありません。佐良浜港か下地島空港で済ませておきましょう。

Q10: 一人でも楽しめる?

A: もちろん!むしろ一人ドライブにぴったりです。好きなペースで走れるし、好きなだけ停まれる。音楽を流すも良し、無音で森の音を聞くも良し。

ヤラブロードが教えてくれること

観光ガイドに載っている「必見スポット」って、だいたい決まっていますよね。綺麗なビーチ、絶景の展望台、有名な食事処。それも素晴らしいし、私も大好き。

でもヤラブロードは違います。

ここは「何もない」場所なんです。インスタ映えするような派手さもない。観光客向けの施設もない。ただ、木が並んでいるだけ。

でもその「何もなさ」が、逆に色々なことを教えてくれます。

急がなくていい
目的地に早く着く必要なんてない。今、この瞬間の風や光を感じることが、旅の醍醐味。

自然と共存する知恵
台風に耐え、潮風に負けず、何百年も島を守ってきた木。人間の都合だけじゃなく、自然と共生する大切さ。

本当の豊かさ
便利さや効率じゃなくて、ゆっくり流れる時間や、風の音を聞く余裕。そういうものが、実は一番贅沢なんじゃないか。

私が伊良部島で一番好きな場所を聞かれたら、正直迷います。17ENDの絶景も素晴らしいし、渡口の浜の美しさも格別。でも、「一番心が落ち着く場所は?」って聞かれたら、間違いなくヤラブロードって答えます。

ここで過ごす時間は、他のどこでも味わえません。

東京に帰ってから、忙しい日々に追われていると、ふとヤラブロードのことを思い出します。窓を開けて走った時の風の感じ。木漏れ日のパターン。葉が擦れ合う音。

そうすると、なんだか心が落ち着くんです。「あぁ、また行きたいな」って思います。

伊良部島を訪れるなら、ぜひ一度、ヤラブロードをゆっくり走ってみてください。急がずに、窓を開けて、島の時間を感じながら。エアコンを消して、音楽も消して、ただ走る。

何もない道が、実は一番豊かな場所だって気づくはずです。


ルート情報まとめ

項目詳細
ルート名ヤラブロード(非公式な愛称)
正式名称沖縄県道90号下地島空港佐良浜線
起点佐良浜港周辺
終点下地島空港周辺
距離約8km
所要時間15~20分(ゆっくり走る場合)
道幅片側一車線
特徴ヤラブ(テリハボク)の並木道
おすすめ時間帯早朝、夕方
おすすめ季節3~5月、10~11月

伊良部島での素敵な思い出作りに、ヤラブロードを加えてみてはいかがでしょうか。派手じゃないけど、心に残る体験になるはずです。